先生こんばんは。今、近所のコンビニに行って帰ってきたところです。コンビニは今はなんでもありますね。そう言われ始めて何年も経つのでしょうけど、若い頃はこんなに便利なものはありませんでした。  先生も昭和の初めにお生まれになって、僕ともどちらかというと歳が近いように思われます。まぁ、叶うわけはありませんけどね。  先生が初めて僕のいる店へいらしたとき、僕は十歳でした。外套姿の男性を後ろにつけて、店頭であなたは言うのです。 「このお店の方ですか? コーラはありますでしょうか」  子供に向かってそんな言葉遣いをする人を、僕は見たことがありませんでした。肩までの黒髪をチリチリにパーマを当てて、まんまるの目玉で僕を見る先生を、強烈に覚えています。  後ろの方はどなただったか全く覚えてないのですが、出版社の方だったかなと今思い出しています。  当時、コーラを売っている店はあまりなく、うちの店にもありませんでした。僕がまごまごしてる間に母が出てきてお断りをし、先生が残念そうな声で軽やかに帰って行かれたこと、その後ろ姿も覚えています。  当時の言葉でハイカラとでも言うのでしょうか。とにかく僕には、人生の大きな出会いだったと思っています。  その後近所のおばちゃん方が、あの人は先生だ、こんな本を書いているなどとざわめいていたのを聞いて、ずっとその名前を唱えていました。  高校に入って図書館で探すとようやくありました。レシピ本と、子育ての本。どれも男子学生には手に取りづらいものでしたが、一緒に映った写真が、あの店先で見た姿と同じだったので意を決しました。  その二冊で一番目に留まったのは、申し訳ないのですがあとがきでした。著者の挨拶ということで書き連ねられた、各四ページほどでしょうか。  あの中には読者への愛や礼儀、真理や矜持が優しい言葉で詰まっていました。  あれはきっと、十歳の頃の僕でも読むことができたでしょう。しかし十六になってようやく出会うことが出来たのは、巡り合わせもありますが、読みたいと思う僕の心が動かしたんだと思います。  今でこそ先生の著書はほとんど読んでおりますが、「きゅうりは夏に限る」と、「子供と対等な議論を」が特に好きです。  季節ものと尊重することは似ていますね。その時にしか出会えないのだから、大事にして、活躍してもらって、そんな姿を見ていると、こちらも満たされた気持ちになります。  先生もきっとそのような歓びにたくさん出会って来たのだろうと思います。僕ももう爺ですが、存分に味わっております。  大哉