先生、おはようございます。僕は今日久しぶりに休みをもらって、一人で散歩をしようと思います。もう暑さがひどいので休み休み、趣味の絵なんぞやっていきたいと思っています。  色弱と言われて長い僕ですが、わからなくてもそれなりの絵は描けるんですよ。まず、絵の具は墨汁のみでオッケーで、あとは皿を数枚と水を持っていきます。硯は重いので致し方ないですね。携行硯を見つけたらぜひ買いたいです。  この手紙も絵描き用の筆で書いていますよ。ほっそいのからぶっといのまで様々で、とはいえぺーぺーの絵描きですから指でも爪楊枝でもなんでも使って構わないんです。  せっかくなので僕の絵を一枚お送りしますね! これは特別よく描けたんです。野良猫がいて僕の周りで砂をかくからそこを描かせてもらいました。あとから妻に話すと、そこは猫のトイレなのでは? と言われてしまいましたが気にしません。よく描けたのは、事実です。猫は可愛いです。  いま、くすみカラーというのが女性の間で流行っているそうです。ピンクや水色などの明るい色を少しくすませることで、大人っぽさや落ち着きを表しているようで、妻もそんな色味のポーチやペンを愛用しています。  僕は長年、どの色を見てもくすみカラーだったと思うので、時代を先取りしていたのだなぁとやけに鼻高々な気持ちになります。水墨画を描きながら時代の先端を突っ走る。なかなか良い肩書きではないでしょうか。  僕にこの症状が出た時、友人がこう言ったんです。新しい視点が生まれるね、って。健常だった時に見えていたカラフルな世界がなくなり、前を見ても後ろを見ても落ち込んでいましたが、それを見かねてのことだったと思います。友人は小学生の頃から仲良くしており、いわば僕の右腕、僕は彼の左腕です。げっそりと老け込んだ僕を見て彼も悲しかったのでしょう。それでも、わかりやすく勇気づけるのではなく、なんとなく僕が好きそうな言葉を探してかけてくれるのがありがたくて、泣いてしまいました。  今見えている色は本当の色ではなく、人間の脳が見せている色である、と知ったのは、動画サイトででした。脳科学者の方の公開講義を見ていて、ハッとしました。  最後まで動画を見て、なんだかとても心が楽になったというか、友人からの言葉と重なって、自分なりの視界、視点を持っていれば良いのだなと気づきました。  世界はまだまだ広いですね。先生もたくさんの世界で、いろんな視点を持って過ごされたかと思います。僕もいつかその域に辿り着きたいな。僕の絵を通して多くの人に伝えたいです。妻も一緒に来て欲しい。きっと喜んでくれますよ。だって、妻も新しいものが大好きですから。  鼎