先生、ご無沙汰しております。年々暑さが沁み渡り、類に漏れずクーラーがなければ生きてゆかれなくなりました。  この度、母が亡くなって七回忌、猫が亡くなって初盆を迎えます。その節は本当にご面倒をおかけしました。  猫は母が野良から飼い始めた子で、目つきの悪いオスでした。なのにノンノという可愛らしい名前をつけられ、母の最期にも、火葬のその時まで鳴いて付き添ってくれました。  ノンノは白黒の大きな猫でした。夫のタバコの匂いが嫌いで文句を言い、パンチをし、いつのまにか私の話は聞かないのにノンノの話は聞いて、夫はタバコをやめていました。  どこで見つけるのか、夏は蝉を、秋はコオロギを、冬はすずめを捕まえては私らの食卓に置いていきました。半殺しの生き物をそっと食卓から外へ運ぶのは一苦労で、さらにその後の食欲も失せてしまっていました。春にむかでを捕まえてきた時は流石に怒りました。ノンノはそれからは生き物をとってくるのはやめて、自分のエサを何粒か食卓に置くようになりましたので、あれは私たちへのプレゼントだったのだなぁと思い直し、嬉しいやら申し訳ないやら思っていました。  ノンノは何故か蚊取り線香の香りが好きでした。タバコが嫌ならこれも苦手だろうと思って、ノンノのいない部屋で焚くようにしていましたが、煙が広がり始めるとわざわざ部屋へやってくるのです。  思えば亡き母は毎日仏壇に線香をあげていました。私はあまりしていなかったので気づきませんでしたが、仏壇に手を合わせる母の隣にはいつもノンノがいた気がします。彼はそれを覚えているのかもしれません。  蚊取り線香の煙が当たるか当たらないかのところに彼はいて、すんすんと鼻を動かしたかと思うと、おもむろに座り込みます。多少暑くても関係ないようで、背中の黒い部分がカンカンに照っていたことを思い出します。  ノンノは母に会えたでしょうかね。飼い主孝行な猫でしたし、飼い猫思いの母でしたから、きっとそうだと思いたいです。  母はガリガリ君が好きでしたので、ほんの少しの時間だけお供えして、あとは私がいただこうと思います。先生、内緒にしていてくださいね。  悦子