道端に落ちてきたお月さんを拾ったら、途端しくしくと泣き始めた。どうしたの、と問うと、帰りたいと言う。どこへ、と聞くと、あすこ、と空を指差す。けど、今は昼だよ。あすこにあんたの居場所はあるのかい? 問いただすと、さらにわっと泣き喚いてしまった。 あーあ、弱ったな。仕方がないので物置にハシゴを取りに行って、母さんからは危ないからよしなさいと叱られて、でもでもと言ってるうちにお月さんがまた声を出すから、母さんはびっくりして腰を抜かしてしまった。 結局父さんが帰ってから、山の上の木の上へ登ってお空へ返してやったけど、お礼もなんも言わなかったな。これが御伽話ならお礼にと言ってご馳走なんかを置いてってくれてもいいのに。 数日後、僕はお月さんのことなんてすっかり忘れていたけれど、夜、窓の外から声がするからカーテンを開けてみた。そしたらあの時のお月さんが少し膨らんだお月さんになって、こっちは友達の金星、とか言って遊びにきた。 僕は眠かったけど、夜は大人のゴールデンタイムよ、とか言うからなんとなく楽しくなって、部屋へ招き入れた。 なんでも、この間のお礼がしたいんだそうな。それは嬉しい。話を聞こうじゃないか。 「これは私の人生で一度しか使えない魔法なのだけど、あなたは私の命の恩人だから、あなたに捧げたいのです」 それはすごい。捧げられることなんて未だかつてなかったから、そわそわしちゃう。 「なにをくれるの?」 「あなたがこれから死ぬまで、ずーっと良い子でいられる魔法をかけます」 「へ?」 僕は理解に苦しんだ。それよりももっと、大きな家とか、おやつとか、そんなものの方が喜ばれるって、金星と相談しなかったのだろうか。 「それではいきます。ぱらりちらほら、ふわわんのわんころり!」 お月さんは呪文のようなものを唱えて、両手を僕にかざした。すると僕は少しだけ周りが暖かくなって、眠たくなって、寝てしまった。 起きたらお月さんも金星もいなかった。母さんにこの話をしたら、あら、それじゃあずっとサンタさんが来てくれるわね。とコーヒーを飲んでいた。 そうか、そういう解釈、ありかもね。