長雨の候、先生におかれましてはご健勝のことと存じます。  私は今、カナダで気軽に暮らしています。そこそこの英語とお金があればなんとか暮らしていけますし、近所の方たちもとても素敵な方ばかりです。  先日マネージャーさんからご連絡をいただきました。先生のお誕生日会のお誘いでしたが、私はなかなか家を離れることもできずお伺いできそうにありません。  家中にアクアリウムを設置したんです。薄暗い部屋に植物用のライトを付けて、苔やら、海藻やら、中には小さなエビを飼ったりもしています。  動く生き物はもとより、海藻も日々を共に過ごすと可愛く思えてくるものです。  彼らと過ごしていると、先生の言葉を思い出します。何者も、何者でもなく、我がものである。という言葉です。私は私、エビはエビ、海藻は海藻ですが、彼らを彼らだと思っているのは僕だけで、彼らは我が道を自然の摂理のまま生きているのです。  私は他人から「日本人らしい」「大人しい」「堅実だ」と言われますが、それもカナダの人から見た私の姿、ひいては日本人の姿だと思います。  私は何者でもなく、私なのだとアクアリウムを見て大きく心を揺らがされました。  今、アパートの部屋の大半を水槽が占めています。もう少し増やすために引越しをしたいのですが、一朝一夕にはできませんね。友人もこのアクアリウムを好きでいてくれるので、近所に住むために調べていこうと思います。  先生にはたくさんの生徒さんがおり、私もその一人です。先生の本を読んだり、お話を聞いたりするととても心が安らぎます。  せっかくのお誕生日会に行けないのは誠に申し訳なく思っています。どうかお元気で、その日をお迎えくださると嬉しいです。  私のアクアリウムの写真を同封します。先生の好きな鮮やかな緑は、ライトをあてるとこうなるんです。暗い深海では色はほぼ見えないなんて、ちょっと切ないですね。  共に夏を乗り越えましょう。  祐一郎